新病院情報

2025.08.20

新病院情報

新病院について病院長が取材(m3.com)を受けました vol.3

地域救命救急センターの指定「収支バランスの検討が必要」

 

 姶良・伊佐医療圏の基幹病院として高度急性期医療を提供している霧島市立医師会医療センター(鹿児島県霧島市)は、病院を建て替え2025年2月1日に新病院を開院した。重要な役割になっている救急医療への取り組み状況と新病院の運営方針などについて、病院長の河野嘉文氏に聞いた。

 

年間救急車受入台数約3500台、救急車応需率約90%

――救急医療を担うことが霧島市立医師会医療センターの重要な役割ですが、霧島市の救急医療はどのような状況になっていますか。

 霧島市の2次救急は、3病院での輪番制になっています。当院には医師が60人おり、他の2病院は約5人と約15人。本格的な外科手術やカテーテル治療、夜間や休日の全科的な救急対応ができるのは当院だけです。霧島市の年間救急車出動台数は約8000台で、約3500台を当院が受け入れています。約半数の救急車を他の2病院が受け入れてくれるので、なんとか救急医療体制の維持ができています。

 3次救急については、姶良・伊佐医療圏に救命救急センターがないため、鹿児島市内の3次救急医療機関と連携して対応しています。また、当院は心臓血管外科や脳神経外科などは常勤医がそれぞれ1人なので、開心術や開頭術が必要な場合も鹿児島市の病院にお願いしています。

河野嘉文氏

――救急科の診療体制と活動内容、近年の診療実績を教えてください。

 鹿児島大学病院にお願いして救急医を派遣してもらい、2021年4月1日に救急科を開設しました。現在は、常勤医4人体制ですが、7人体制を目指しています。救急患者については基本的に救急科の医師が初診を行い、必要があれば各専門診療科につないでいます。夜間と休日は各専門診療科のオンコール体制をとっています。

 年間の診療実績は、2023年度救急車受入台数3609台・救急車応需率92.6%、2024年度救急車受入台数3333台・救急車応需率89%でした。救急患者は軽症の高齢者が圧倒的に多くなっており、入院率は約50%です。ウォークインで受診される患者の入院率は約30%です。2024年度の救急車受入台数が減っているのは、新病院への移転準備で1カ月間救急車の受け入れを制限したためです。MRIの移設に3カ月かかり、その間は脳神経外科の受け入れができなかったことも理由です。

 救急外来にはベッドが5床(2025年5月から7床)あります。高齢で多疾患併存の救急患者が多くなっていることから、患者1人に要する治療時間がどうしても長くなりがちで、病院外での心肺停止で搬送された場合はベッドの使用が6時間くらいになります。そのため、応需率は90%を超えているものの、救急外来のベッドが満床という理由で救急車の受け入れを断らざるを得ないことが多くなっています。

2023年度救急車台数及び応需率

地域救命救急Cの指定には「医師も看護師も増員必須、採算が取れるのか」

――鹿児島県全体の救急医療バランスを考慮して地域救命救急センター指定の期待があるようですが、病院長としてはどのように考えられていますか。

 姶良・伊佐医療圏は人口が全体で20万人を超えており、霧島市だけでも約12万人と鹿児島市に次いで県内で2番目に人口の多い自治体であることを考えると、地域住民のために市立の当院が地域救命救急センターになることは重要です。ただし、継続性の観点から地域救命救急センターの指定については熟考が必要だと考えています。

 当院は以前から地域救命救急センターの指定に向けて準備をしてきたので、設備的な面はほぼクリアできています。課題として残っているのは、緊急手術を24時間365日行える体制を構築することです。現在、当院の麻酔科には常勤医が1人しかいないため、平日は非常勤医師の応援を受けながらなんとか年間約1200例の全身麻酔手術を行い、休日は非常勤の麻酔科医が鹿児島市内でオンコール体制を取っている状況です。麻酔科の常勤医が増員されなければ、地域救命救急センターの指定は難しいと考えています。

 また、救急科の常勤医の増員も必要です。現状では、救急科の医師が初期対応をできない日が、夜間は週に2~3日、休日の日中は月に2~3日あります。救急科の医師が24時間365日体制で初期対応を行えるようにするためには、常勤医が最低でも7人(現在は4人)必要だと考えています。さらに、指定要件にあるICU設置の問題もあります。現在あるHCU10床のうちHCUとして登録していない2床をICUにすることもできますが、ICUを運営するための人員、特に集中治療に従事できる看護師を10人以上増やすことが必要になります。

HCUでのケアの様子

 このように地域救命救急センターの指定を受けるためには、救急医療に携わる医療スタッフの増員が必要となり、経費が現在よりも大幅に増えることになります。一方で、2024年の診療報酬改定では救急医療管理加算の見直しがあり、算定要件が厳しくなりました。地域の医療ニーズ、特に姶良・伊佐医療圏内で3次救急の患者さんが年間でどのくらい発生するかを分析した上で、収支のバランスが取れるのかを十分に検討する必要があります。

 病院経営の責任者である病院長としては、「まずは地域救命救急センターに匹敵する医療機能を整備することを目標にしましょう」と職員に話しています。

地域の医療ニーズに応えて診療科整備すると経営は苦しい

――病院経営で取り組まれていることと、新病院の今後の運営方針についての見解を聞かせてください。

 目標にしていた「DPC係数1.5以上」は達成できました。また、急性期病床の診療単価を約5万5000円から目標を7万~7万5000円にするレベルまできました。病院長として赴任した当時は12~13日だった在院日数も、10日を切ることを目標に取り組み、現在は9.5~10.5日になりました。一方で、在院日数が12~13日だった頃は90%を超えていた病床稼働率が、在院日数短縮に伴い80%台となりました。今後は、在院日数10日以内で病床稼働率を90%超とすることが目標です。診療加算の請求漏れや診療費の未回収を減らしていくことも必要だと考えています。

新築した霧島市立医師会医療センター

 新病院が開院したことで明るい希望ばかりであればよいのですが、現実には厳しい事態が待ち受けていることも事実です。当院は姶良・伊佐医療圏の基幹病院として、医療機能の整備を続けなければならない使命を担っています。消化器外科、呼吸器外科、泌尿器科、脳神経外科、心臓血管外科、整形外科、耳鼻科など、広範囲の外科手術に対応できるのは当院だけで、小児診療を24時間対応できるのも当院だけです。

 地域の医療ニーズに応え、採算をある程度は度外視して幅広い診療科を整備すれば、病院経営は厳しくなります。一方で、経営の観点だけで医療機能を縮小すれば、基幹病院としての役割が果たせなくなります。特に公立病院としては、政策として取り組んでいる救急と小児医療の縮小は避けたいところです。当地区全体としては2040年まで医療需要が上昇しますが、当医療圏内の湧水町ではすでに老年人口も減少しています。今後の病院経営は人口減を前提に地域で再編しなければ、かなり厳しい状況になると考えています。

 病院経営の効率化を重視するのか、それとも地域社会の公共資本として住民が税金で支えるのか、その中で医療者はどのように働くべきなのか。当院の在り方や提供する医療の内容については、設置自治体と医療受益者と医療提供者が、対等な立場で話し合う必要があると考えています。

◆河野嘉文(かわの・よしふみ)氏

1981年鹿児島大学医学部卒業。聖路加国際病院研修医、バーゼル大学血液内科、徳島大学小児科、九州がんセンター小児科を経て、2002年9月から鹿児島大学医学部小児科教授、2017年4月から鹿児島大学医学部部長、2021年4月から霧島市立医師会医療センター病院長。(元)日本小児学会小児科専門医、日本血液学会血液専門医、日本造血・免疫細胞療法学会造血細胞移植認定医など。

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