2025.07.16
新病院情報
新病院について病院長が取材(m3.com)を受けました vol.1
物価上昇で建設工事を延期、コロナ禍や国際紛争も影響
姶良・伊佐医療圏の基幹病院として高度急性期医療を提供している霧島市立医師会医療センター(鹿児島県霧島市)は、病院を建て替え2025年2月1日に新病院を開院した。新病院を建設した理由と開院までの経緯、病室を全室個室にしたことの効果などについて、病院長の河野嘉文氏に聞いた。
物価上昇による建設工事費、当初予定から20億円増加
――霧島市立医師会医療センターの建て替えを行った経緯を聞かせてください。
当院は、2006年4月から指定管理者制度を導入したことにより、土地・建物・医療機器などは公有財産として霧島市が管理し、病院の管理と診療にかかる業務は姶良地区医師会が行っています。
当院の老朽化に伴い、患者さんの療養環境が悪化していること、旧国立療養所の平面的構造とその後の増改築の結果により、動線が長く複雑化して業務効率の低下をまねいていること、今後予測される修繕費の増大などを考慮し、霧島市は2010年2月に「霧島市立医師会医療センター在り方等検討委員会」を設置しました。2012年12月には、新たな施設整備についての基本構想を策定。その後、鹿児島県が策定する地域医療構想との整合性を図ることが必要となり、2013年10月に活動を一旦休止し、2016年11月に県の地域医療構想が策定されたことを受け、検討委員会が再開しました。
2018年3月に新たな基本構想を策定し、霧島市・姶良地区医師会・病院職員に学識経験者などが加わった「霧島市立医師会医療センター施設整備委員会」を設置。2019年3月には基本計画を策定し、2021年3月に株式会社久米設計から基本設計が提出されました。私が当院に院長として赴任したのは2021年4月なので、新病院の基本設計が出来上がったばかりで、建設工事を請け負う業者をこれから選ぶという段階でした。
河野嘉文氏
――新病院の建設工事に着手する時期から急激な物価上昇が始まりましたが、工事に影響がありましたか。
霧島市が2021年12月に「大成・鎌田・南特定建設工事共同企業体」を施工予定者に選定し、予定では2022年9月上旬に工事請負契約を締結し9月中旬には起工式を行う見込みでした。ところが、2022年になるとウクライナ紛争が勃発し資材調達が遅れることや、急激に円安が進んだことなどもあって物価が上昇し、その影響で霧島市と施工予定者との間で工事内容と費用に関する交渉が3カ月間続きました。正式に工事請負契約を締結できたのは2022年12月27日、その後、2023年1月15日に起工式を行い、2年の工事期間を経て2025年2月1日に新病院を開院することができました。
当初の施設整備基本計画では概算事業費を約133億円に設定し、うち建設工事費は約105億円でした。最終的な契約金額は約125億円で、計画を約20億円上回ったことになります。
新築した霧島市立医師会医療センター
患者間トラブルがなくなり、医療業務に集中できるように
――新病院建設では病室を全室個室にしたことが特徴になっています。多床室をなくし個室のみにした理由を教えてください。
私は新病院建設の企画段階には加わっていなかったのですが、新病院の建設に際して重点を置いたのは、患者さんの療養環境を快適にすることが主な理由だったそうです。そのため、病室を全室個室にし、転倒などの事故や感染リスクを低減し、多床室では避けられない音や臭い、消灯や面会時間制限などの問題点を改善するとともに、個人のプライバシーと生活リズムを確保しました。
既存の多床室での問題は、まずは室温調節でした。感じ方に大きな個人差が出る点であることに加え、以前は中央一括管理で部屋別に室温調整ができず、夏は暑くて冬は寒い、あるいは南側と北側で温度が違うなどのクレームがたくさんありました。また、経費削減のために空調を24時間稼働できなかった問題もありました。患者さんは自宅では自分にとって快適な室温を24時間保っているのに、体調が悪くて入院するとそれができないという矛盾した状況に置かれることになっていました。
また、同室の患者さんのいびきなど、生活音で眠れないという苦情もとても多くありました。いびきや物音は患者さん本人のせいではないのですが、療養への影響が大きいことは理解していたので、可能な範囲で問題を解決する努力を続けてきました。
病室を全室個室にしたことにより、患者さんの間で発生する問題が解消されました。看護師の精神的な負担が少なくなるとともに、トラブル対応に費やす時間がなくなり、本来のケアに集中できるようになりました。また、以前は頻回だった患者さんの病床移動がなくなり、感染症への対応がスムーズにできるようになったことも、看護師や看護補助者の負担軽減につながりました。
一般病床には11室だけシャワーを設置した特別室があり、差額ベッド代は1日5500円です。
全室個室の病室
小児患者の母親が「3~4日は入院してもいい」と話す
――病室を全室個室にしたことで何らかの効果がありましたか。
病室を全室個室にしたことによって生じる最大のメリットは、感染症やがんなどの疾患や性別に配慮することなく部屋割りができることですね。また、「早く自宅に帰りたい」と要望する患者さんが減りました。それは、小児病棟に顕著に現れています。以前は母親の多くが子どもの入院翌日に、「狭い多床室での付き添いが大変なので、すぐに自宅に帰りたい」と話していたのですが、新病院では「3~4日は入院してもいい」と話してくれるようになりました。今後は、鹿児島市内の医療機関で初期治療を終えた患者さんが、継続治療のために全室個室になった当院に転院してくれることも期待しています。
◆河野嘉文(かわの・よしふみ)氏
1981年鹿児島大学医学部卒業。聖路加国際病院研修医、バーゼル大学血液内科、徳島大学小児科、九州がんセンター小児科を経て、2002年9月から鹿児島大学医学部小児科教授、2017年4月から鹿児島大学医学部部長、2021年4月から霧島市立医師会医療センター病院長。(元)日本小児学会小児科専門医、日本血液学会血液専門医、日本造血・免疫細胞療法学会造血細胞移植認定医など。
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